会社員から農業女子へ。新規就農のきっかけ
春大根の花。日本料理の彩りやあしらいとしても利用できるんですよ、と教えてくださったのは6年前に神戸市西区で新規就農されたチアファーム 元農園さん。
【月刊フードジャーナル2017年6月号】では、チアファームさんを取材させていただき、新規就農のきっかけから現在の活動の様子をご紹介しました。
30歳で独立・起業を志し、じっくりと自分自身の進むべき方向を見極めながら準備を進め、新規就農への道を選んだチアファーム 元農園、浅川元子さん。
会社員だった頃は、営業で外回りをしていると、ランチはいつも車が停められるコンビニでお弁当を買って食べる、という生活。
食材の買い出しはほぼ週末に限られ、せっかく野菜を購入しても、忙しくて食べきる間もなく冷蔵庫の中でしなびてしまうこともしばしばで、栄養不足を心配していつのまにか大量のサプリに頼る日々だったのだそう。
その姿を友人に指摘され、我に返ったという浅川さん。「社会の一員としてこんなに頑張っているのに、こんな生活はやっぱりおかしい。おいしいものが食べたい!」そんな思いも、農業を志すきっかけになったと語ってくださいました。
露地栽培で季節本来のおいしさを味わえる野菜作りを実践。
作物はすべて露地栽培で育て、季節感を大切にしています。収穫した野菜は契約レストランとのお取引、個人向け宅配、そして神戸市内で行われているファーマーズマーケットでも販売しています。
ファーマーズマーケットでは、神戸市内の大学に通う学生さんとの農業交流も積極的に行い、販売のお手伝いや農作業を通して、「おかあさん」とよばれる存在に。若い世代が、真摯な浅川さんの姿から学べることは、たくさんあります。
一人暮らしや寮生活をしている学生さんたちにはレシピなどを伝授して、浅川さんの野菜をみんなで料理して食べたりもするのだそう。食べることの大切さを学生のうちに身につけ、社会人になって忙しくなっても、しっかり自分で食べられる人になってほしい。自身の経験を踏まえて学生さんたちに、食べる楽しみを見つけて欲しいと願う浅川さんでした。
力仕事も多い農業。女性がすべてをまかなうのは至難の技のように思えます。「農業を始めていちばん大変だったことは?」と伺ってみると、「ビニールハウスを建てること」だったと話してくださった浅川さん。
作物は露地栽培ですが、苗を育てたり出荷の準備をしたり、農機具を保管するための場所は必須。台風などで飛ばされないように、かなり頑丈なビニールハウスを作る必要があり、相当なご苦労をされたのです。それ以外はからだの使い方を工夫して、重いものは小分けにして運んだり、機転を利かせながら自分次第でなんとでもなる!というたくましさも手に入れた浅川さんでした。
野菜ソムリエプロがおすすめするおいしい野菜の食べ方
チアファームさんで育てられていたツタンカーメン。紫色のさやが印象的ですが、中を開けてみるとお豆の色は緑色です。
古代エジプトのツタンカーメン王の数ある副葬品のなかから発見され、それを発芽させて栽培に成功したという豆です。見た目のインパクトだけでなく、このツタンカーメンにはおもしろい現象も。
紫色はポリフェノールの一種ですが、加熱すると色が抜けてしまいます。さやはかたいのでスナップえんどうのようにそのまま食べることはできないので、炊き込みご飯にする時は中の豆を取り出して使います。
炊きあがりは一般的な豆ごはんと同じように、豆は緑色でごはんも白いのですが、炊飯器ジャーで一晩程度保温しておくと、お赤飯のようなピンク色に染まります。
さやと一緒に炊き込まなくてもこんなきれいな色になり、しかも数時間経ってから変化するのもおもしろいですね。ジャーの中にごはんを入れっぱなしにしておくと、炊きたてのようなおいしさは失われますが、ぜひこの不思議な変化を楽しんでみてください。
お好み焼きにも使えるズッキーニ
30センチを超える立派なズッキーニ!お取引先のシェフからは人気で喜ばれるのだそう。私もこの大きなズッキーニをわけていただき、浅川さんに教えていただいたおもしろい食べ方にチャレンジしてみました。
うすくスライスしたズッキーニをさらに千切りにします。こんなにうすく、細かくカットしたのは初めてです。ズッキーニというと、ラタトゥイユなどの煮込み料理か輪切りにしてグリルで焼いたり、というのが定番の食べ方で、それ以外にはあまり使ったことがありませんでした。
生産者さんのおすすめ、ズッキーニをお好み焼きにして食べるという方法を教えていただきました。キャベツの代わりにズッキーニ!これはアリです!
せっかくの新しい試みなので、もっとヘルシーに食べてみようと、小麦粉のかわりに豆腐を使用。木綿豆腐をしっかり水切りして、巨大な豆腐ハンバーグのような様相になりましたが、ヘルシーメニューに仕上がりました。
つなぎがないと、やはり生地がなかなかかたまらないので、片栗粉を使いました。さらに、たまごを加えるとよりまとまりやすくなります。できればたまごは使わず、ベジタリアンのかたにもおすすめできるメニューに仕上げたいです。まだまだ研究が必要ですね。
今回の取材を通して、ひとりで頑張っている浅川さんの姿に、私自身の姿も重なって見え、共感することが多々有りました。組織のなかでこそ自分の能力を存分に発揮できる人、組織のなかでは輝きを失ってしまう人、どちらがどうというのではなく、自分がほんとうに望む場所や仕事で、本来のちからを引き出すことができたなら、なんて幸せなんだろうって思います。
私もフリーランスとして活動していく道を選び、幾多の紆余曲折を経て今に至り、まだまだこの先へ続く道を歩いていきます。野菜や果物に関わるお仕事をさせていただけること、そして農業で頑張っている人の姿にふれることで自分自身も触発され、勉強させていただけることに感謝しています。